かわいそうだから森に返してあげる? 放虫の話
いったん飼育した昆虫を野外に放つのは問題があります。
飼っていたカブトムシやクワガタを「森に返してあげようねぇ」と子どもに言い含めるお母さんがまだまだいるようです。夏休みの終わりごろになると、弱ったカブトムシと昆虫マットやゼリーが雑木林に捨てられているのをよく見ます。
ちょっと待ってください。一度飼った虫は、最後まで飼ってあげてほしいです。
外国産のクワガタを庭で見つけたという子を何人も知っています。こちらは、放したのではなくて、ご近所の誰かがうっかり逃がしてしまったようです。
↑ ご自慢の地元産のノコギリクワガタ。
- 生態系がおかしくなってしまう
- 地域による遺伝子情報が狂う
- 成虫だけではなく昆虫マットも捨てないで
- チョウを飼って放す習慣は?
- わざと放した人のせいで?
- 産卵させすぎないように気をつける
- これだけは気をつけたい!
- でも、厳密に守るのは無理…
- 外来種に助けられている場面もある
- 参考のサイトと書籍
生態系がおかしくなってしまう
そこに本来住んでいない生き物が入ってくると、それまで暮らしていた生き物が生きていけなくなる場合もあります。
力の強い外国産のクワガタが、国産のクワガタをやっつけてしまうかもしれません。新参者が食草や食樹を食べつくしてしまうかもしれません。
たとえば、最近見かけなくなった大きなミノムシ。オオミノガのミノムシは、そこに寄生する虫(オオミノガヤドリバエ)が中国からはいってきた影響で、全国的に姿を消してしまいました。
最近日本の各地で見つかっている外来種のムネアカハラビロカマキリは、在来種のハラビロカマキリよりも大きくて凶暴なので、地域内に入ってくると数年で在来種のハラビロカマキリが減ってしまうという報告もあります。
地域による遺伝子情報が狂う
外国産の虫と国産の虫が結婚したら、混血が生まれてきます。これも、今までいなかった虫です。どう生態系に影響するのか未知数です。
国産の虫を放すのにも問題があります。
昆虫館などに行くと、ギフチョウの地域変異の標本がよく展示されています。チョウの翅の模様が地域によって微妙に違うのです。センチコガネというコガネムシは、地域によって別の虫かと思うほど体の色が違います。
そういう目に見える変異以外にも、遺伝子的に見ると地域変異があります。育った場所以外で放虫すると、遺伝子情報が混雑してしまいます。
↑ ヤマトタマムシ並みの緑の光沢が美しいセンチコガネ三重県産。奈良のセンチコガネは青色。
成虫だけではなく昆虫マットも捨てないで
雑木林に行くと、明らかに外国産の虫を飼った後だと思われる昆虫マットが捨てられているのも見かけます。糞が大きくて、たくさんマットが消費されるから、捨てる場所に困るのだと思います。でも、その中に外国産のカブクワの卵が入っていたら、放虫しているのと同じことです。
虫に寄生するダニなども、国内にはいない種類のものがついているかもしれません。
チョウを飼って放す習慣は?
学校で、アゲハやモンシロチョウを飼って、羽化したら外に放しますが、あれだって本当はどうなのかと思います。
そこまで言い出したらキリがないので、地元産のものを少し放すのは許容範囲のようです。私もすでに何百もチョウを飼って放していますが、未だにちょっと罪悪感を持って放しています。
昔、私の実家はお隣りに蝶の研究者が住んでいました。庭木にはチョウを飼育するために白いネットがたくさんかけてありました。育てたチョウは放虫していたものもあるようで、実家に行くとその地域にいない珍しいチョウが飛び交っているので、子どもは喜んで花壇に来るチョウを捕まえていました。これはだめでしょ。
わざと放した人のせいで?
アカボシゴマダラというチョウは、本来国内では奄美大島にしか生息しないチョウでしたが、横浜南部か鎌倉でちらほらと姿が見られたと思ったら、あっという間に東京を超えてもっと北まで広がってしまいました。今ではほかの地方でも見つかるようです。
広がったチョウの遺伝子を調べると中国産のものだったそうで、中国から持ち帰ったアカボシゴマダラをマニアが放蝶したのではないかと言われています。
この拡散の勢いは本当に驚きでした。よく似た在来種ゴマダラチョウが数を減らしているのと大違いです。
私もこのチョウは珍しいので、何度も飼育して放しました。これも勢力拡大に加担してしまった行為です。
↑ 羽化直後のアカボシゴマダラ夏型。
産卵させすぎないように気をつける
カブトムシを飼っていると、うっかりしていると驚くほどたくさんの幼虫が育っていることがあります。大きくして成虫にして天寿を全うさせてやるためには、大量の昆虫マットとゼリー、飼育スペースが必要です。お金がかかるから外に放したくなる誘惑はわかりますが、これも責任をとるしかありません。
栄養のあるマットで育てて大きなカブトにできたら、貰い手も出てくるはず。
これだけは気をつけたい!
店頭でもネットでも、どこのものかもわからない虫たちが簡単に手に入る時代です。
とりあえず、外国産の虫は放さない、
国産でも地元産じゃない虫、買ったりもらったりした虫は放さない、
いったん飼育した虫は地元産でもなるべく放さないというのが一般家庭のマナーでは?
だから、夏休みに帰省先のおばあちゃんちで捕まえたカブトムシは、最後まで責任をとらなきゃね。
でも、厳密に守るのは無理…
考え始めたら、ホタルの保全だってNG? アユを放流してアユ釣りに行くのだってNG? オオムラサキの保護は? 船荷に紛れて来て勝手に広がる虫だっていっぱいいるし。生物農薬として外国からやってきた虫が逃げ出すこともあるし。
そもそも、いろんな生き物を簡単に売りすぎじゃない?などなど…
考え始めると矛盾点はいっぱい。
カブトムシなんて私の子どものころから「親戚のおじさんにもらった」とかあって産地の違うものが混雑していたはず。
わが家は、庭に虫塚(虫のお墓)を作ってあって、死んだ虫や昆虫マットはそこに集めて親子でお墓参りのようなことをやっていました。あれだって、本当はよろしくないのかも。でも、死んだ虫をゴミ袋に入れて出すのは忍びなくて…。
外来種に助けられている場面もある
植物を見ていると、丈夫な外来種をたくさん植えて土留めに使ったり、水質浄化に使ったりしています。
ミツバチだって、国産のミツバチよりもセイヨウミツバチの方が野山の植物の受粉に貢献しているようにお見受けします。
↓ この本は、外来種の活躍ぶりに目を向けた本です。

外来種は本当に悪者か?: 新しい野生 THE NEW WILD
- 作者: フレッド・ピアス,藤井留美
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参考のサイトと書籍
◇日本昆虫学会|外国産昆虫の輸入に関わる外来種管理法の早期設置に向けての要望書