虫はともだち

虫の本の紹介、写真撮影、子育て、いろいろ…

昆虫標本やマーキングが気楽にできる時代はもう終わる?

「昆虫が趣味」という人にも、捕る人・標本にする人・飼育する人・撮る人…いろんなタイプの人がいます。私も、捕るし、飼うし、以前は標本もそこそこ作りました。最近は写真に撮っておしまいなことが多いです。

諸先輩にいろいろ教えていただく機会もあるのですが、標本やマーキングなどの生き物を傷つける行為については、「これでいいのかな…」と思うこともあります。

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虫を捕る意味 

虫を捕るにも、道理に合った捕り方があると思うのです。

狙い撃ちをすると虫や環境がわかる

虫とりの基本は、待ち構えて網でキャッチすることだと思います。待ち構えて捕まえるためには、「狙う虫がどんな場所が好きか」「食草はなにか」など、こちらにもいろんな事前準備が必要です。産卵しに来たメスなのか、メスを探すオスなのか、で飛び方も違います。子どもでも、慣れてくると、はるか遠くに飛んでいるチョウも、飛び方などで名前がわかるようになります。

たとえば、北側の暗いところにあるミカンの木に来た黒いアゲハはクロアゲハ、明るい場所のミカンの木に来る黒いアゲハはナガサキアゲハ…とかも、子どもから教えてもらいました。

子どもたちは、こういう虫とりをする中で、虫の性質や植物の名前や生態系のつながりを肌で覚えていけるのだと思います。

ビーティングでは生態がわからない 

同じ虫とりでも、大人が一緒だとよく見かけるのが「ビーティング」です。枝を棒などで叩きながら、大きな網や仰向けにした傘の上に、片っ端から虫を落としていく方法です。

枝先にいる小さな虫やクモまで、かなりいろんなものが落ちてきます。落ちたものを振り分けて、目的の虫を捕獲して、残りはその場に放置。

じっと目を凝らさなくても簡単に虫が見つかるので、専門家もこの方法でやる人が多いのでは?

でも、これって「その虫がそこで何をしていたのか」「どんなふうに止まっていたのか」が全然わからないので、私はやっていて面白くありません。

大量に捕りまくる弊害

ビーティングやトラップをしかけたり…、網を振り回してとにかく大量に捕りまくるやり方もよく聞きます。収集家や研究者はこういう感じが多いですね。昆虫の有名産地や調査に行くと、こんな風に一網打尽方式を見かけます。

カブトとクワガタ以外は全然興味のないお父さんたちも同類かもしれません。異常にカブクワのみに執念を燃やしている人、森でよく見かけます。

私も、子どもが小さい頃は「連れてきたよその子が持ち帰れる分まで捕らなくてはいけない」というプレッシャーで、カブトやクワガタを捕りまくったこともありましたが…。マイフィールドで来年も常連の虫たちの顔を見るためにも、捕りまくろうという気はだんだん失せてきました。遠くに出かけて一網打尽で虫を捕る人たちは、いつも通う近場のマイフィールドでも同じことができるんでしょうか。もしかしたら、守るべきマイフィールドがない愛好家もいるかもしれませんね。 

虫を飼う意味

フィールドではわからないことがわかる 

フィールドで見つけた卵を持ち帰って孵して、その卵の正体を解明したり、飼育することでいろんな習性を知ることができます。

以前、アリジゴクを捕ってきた時、園芸用の砂では水分が多すぎたせいか、全然巣を作ってくれませんでした。川原で白砂をすくってきて飼育箱に入れたら、その晩にシュッシュッと砂を飛ばしながらすり鉢状の巣を作ってくれました。アリジゴクは夜行性なので、こういう様子は野外ではなかなか観察することができないはず。

持ち帰りを禁止する親 

よその家と出かけたりすると、「持って帰っちゃダメ!」と言うお母さんがほとんどです。でも、持ち帰って飼うことでしかわからないこと、体験できないこともたくさんあるのに…。

持ち帰りを禁止する理由として、「虫さんがかわいそう」という自然愛護的な理由を掲げて反対するお母さんがよくいますが、そこらへんの虫は、数匹捕ったぐらいでは全然減りません。数匹の命を憂うよりも、わが子が子ども時代に虫を飼って、「虫は生きているんだ。おもちゃとは違う」という実感を持った大人になることの方が、長い目で見て虫全体に対してずっと「かわいそうじゃない」と思います。

環境とのつながりもわかる 

エサになる草や生餌、住む場所になる土や枝を確保してあげないと、虫は死んでしまうのだという経験は、おもちゃでは得られないことだと思います。

子どもが小学生のころ、学校でカイコを飼育していて、子ども同士でクワの木がどこにあるのかを教え合っていました。「畑の脇のクワは農薬がかかっているからやめたほうがいいよ」なんて言う話もしていたり。今住んでいる街は、クワではなくて同種のコウゾが自生しています。理由を調べてみたら、実は標高が結構高い土地にはクワは生えないという事実。カイコという虫を飼うことで、虫だけではなくいろんなつながりが理解できるはず。

そういう経験があれば、「虫が来るのがいやだから、庭木を全部切る」「隣りの空き地の雑草がいやだから除草剤をまきまくる」「街路樹はオリンピックに邪魔だから切り倒そう」という大人が減るのではないでしょうか。

標本にする・標識をつける意味

やっと本題の、標本やマーキングについてのお話です(^^;) 

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標本にするとわかることも多い  

私が初めて標本を作ったのはチョウでした。捕まえたチョウを三角紙に入れて腹部を指で押して絶命させ、持ち帰ってすのこの上でピンとトレーシングペーパーで押さえて展翅。手で持って作業すると、体の構造や鱗粉の様子がよくわかりました。関東に定着したばかりのアカボシゴマダラの正体がわかったのも、標本を作ってあったからでした。

飼っていたカブトムシやクワガタが死んだら、翅を広げて飛翔するカブトムシの標本を作ってみたり。カブクワやタマムシは、並べてみると個体差がかなりあることがわかります。

アルコールを瓶に入れてクモの標本を作ったこともありました。クモは似たような外観のものが多く、標本を顕微鏡に載せて生殖器を確認しないと正確には名前がわからないものも多いです。

標本収集は生理的に無理  

アマチュア愛好家が、虫を楽しむため、虫を調べるために、「大量に」虫を捕って標本にしたりする行為は 、私はあまり賛同する気持ちになれません。

枝から虫を落としてしまっても申し訳ないのに、自らの手で命を絶って標本にするなんて。虫が好きで、できれば虫を守りたいと思っている人たちが虫を殺して集めるのは、なんだかおかしくないですか?  

とある先輩に「とにかく数を集めなくては、調査にならない」とご教授いただいたこともあって、標本を作ろうかと思ったこともありましたが、結局、性に合わずに中断しました。

私が子どものころは、文房具屋に行けば普通に昆虫標本を作るためのキッドが売っていたし、男子の夏の遊びは昆虫標本作りだったと思います。弟の机の引き出しを開いたら、チョウの標本がたくさん出てきてギョッとしたことを覚えています。でも、今は昔のように「捕りたい放題」ができるほど虫があふれているとは思えません。

 

虫の生息状況の調査や研究のために標本するのは理解できますが、アマチュアまでが過剰に標本作りや標識つけをするのは、どうも理解できません。(個人意見です)

アサギマダラのマーキングについてはこちら。 

mushitomo.hatenablog.com 

標本は素人には管理も面倒 

ちなみに、標本って、数が増えると保管場所がなくなって一般家庭では置き場所に困ってしまいます。うっかり紙製の標本箱に入れていると、カツオブシムシが大発生!(やるなら、密封できて湿気は抜ける木の箱で…)

古くなって捨てようと思っても、祟りがありそうで、なんとなく捨てにくいです。 

こんな素人管理では、虫も成仏できないでしょう。

 

 わが家はこの標本箱です。防虫剤がなくても、何年たってもきれいです。

 博物館にあるのはこんな感じ。 

大型ドイツ型標本箱(茶)

大型ドイツ型標本箱(茶)

 

インセクトフェア 

毎年9月に、東京の大手町でインセクトフェアという世界中から昆虫標本が集まるイベントがあります。

私たち親子も何度か行きました。見たこともない外国の虫の標本や、生きた虫がいっぱい売っていて、一日中いても飽きません。そこらへんの博物館よりも虫の種類や関連グッズも豊富で、虫好きにはものすごくエキサイティングなイベントです。

 

本来、これは親子連れのためではなくて、大人の収集家のためのイベントです。例えば、ギフチョウと一口で言っても、生息地によって微妙に翅の模様が違います。「このラインがちょっと」とか「〇〇型かな」とか、真剣に標本を吟味する大人たち。見ていると、一般人としてはちょっと引いてしまうような場面も見かけます。

でも、私たち親子もインセクトフェアは本当に楽しくて、「標本反対!」と言いながら、自分が矛盾しているのはよくわかります(^^;)

 

研究のための標本ならばいいのかもしれないけれど、ただ集めるための標本って、どうなんでしょう。まあ、レアカードを集める少年たちも、同じようなバッグをたくさん買ってしまう女の人たちも、無駄にクモのグッズを集める私も、同じ穴の狢なのかな?

でも、虫が元気に生きて行ける環境は明らかに私が子ども時代と比べても減っているわけで、「昆虫標本のコレクター」はもう時代遅れなんじゃないかな…。外国のきれいな虫が見たかったら、素敵な写真集がたくさん出版されていますし。 

世界昆虫記 (写真記シリーズ)

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学校で伝えてほしいこと

虫とりを嫌悪しないで 

最近は学校の校外学習などでも、「虫は見るだけ」「捕ったら離しましょう」というのが当たり前になりつつあります。そういう風潮に対しては、断固反対です。

何度もしつこく書きますが、捕らなきゃわからないことや、飼わなきゃわからないことはいっぱいあります。

「必要以上に捕り過ぎないで、責任を持って飼うように」、理科の授業でも教えてほしいと思います。

「死んだらまた買ってもらえばいい」「餌はどこで売ってるの?」という発想の子も増えています。捕ってきた虫は、その場所にいた何かを食べて生きていたはず。小さいうちに、生きものと向き合って、生きもののつながりを体験をしてほしいと思います。 

コレクションではなく生態の観察を

虫が好きな人は、「こんなレアな虫を見つけた!」ということを目標にすることが多いと思います。マスコミやブログでも、「新種の虫を見つけた」ということは注目を浴びやすいのが現実です。

カメラや動画撮影技術が向上した今の時代は、新しい虫やレアな虫を見つけるよりも、ごく身近な虫の意外な行動を、じっくりと密着観察する方が学術的にも価値があるのでは?

おしまいに 

賛成なのか反対なのか、ぐだぐだした記事になってしまいました(^^;)

子どもが虫を捕ることは賛成。真実の解明のためには標本もマーキングも賛成です。

ただ、「虫を愛する人たちが逆に虫を殺したり、傷つけたりしているという状況、特定の好きな虫さえ手に入ればいいという考え方に、ちょっと違和感を感じている」「捕りたい放題できるいい環境はどんどん減っている」と言いたかったのです…。

 

   

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