クモが好き わが子を守るお母さんグモたち
「クモは怖くないよシリーズ」の第三弾。今回はクモの母性愛です。
クモは産卵した後も、卵や孵化した子どもたちを守り続けるものが多くいます。卵のうを保護するクモ、子育てするクモなど、命を張って子どもを守るクモのお母さんたちの母性愛について、タイプに分けてまとめてみます。
※ご注意 クモらしい形のクモや子グモたちのまどいの写真も出てきます。
- 卵のうを守ったまま死んでいくクモ
- 子グモが分散するまで見守るクモ
- 子グモにミルクをあげるクモ
- 卵をくわえて保護するクモ
- 卵のうをくわえたまま移動するクモ
- 卵のうを運び、生まれた子をおんぶするクモ
- 母グモが子グモたちの食糧になるクモ
- アマチュア向けのクモの図鑑
- おしまいに
卵のうを守ったまま死んでいくクモ
日本中で一番メジャーなクモはジョロウグモではないかと思いますが、木の幹や雨のかからない物陰に卵のうを産みつけて糸で覆い、母グモがその上に覆いかぶさって保護します。
個体によってはいくつも卵のうを作るようですが、冬になって卵のうの上で力尽きているものをよく見かけます。子グモが外界に出る春までは母グモは生きられません。
子グモが分散するまで見守るクモ
◆クリチャササグモ
自分の色が保護色になるような、枯草の中に卵のうを作り、覆いかぶさって保護。このクモはうちの近所ではごく普通種ですが、一般的にはレアなクモのようです。
◆ササグモ
クリチャササグモと同じ仲間のササグモは、体色がレモン色。緑色の葉っぱを糸で折り曲げて卵のうを作ります。子グモたちは卵のうから出ても、しばらく母グモのところで暮らします。
◆二ホンヒメグモ
庭木や街路樹の茂みに落ち葉の小さな家を吊るして、その中で子育てをします。この写真は、初夏にメス(下の茶色いクモ)が作った家に、オス(赤いクモ)が一時的に住み着いている様子。クモのオスは、うっかりするとメスに食われてしまうので、少し離れたところで待機。この後、メスは落ち葉の中に卵のうを作り、子育てします。
卵のうから子どもたちが出てきています。分散前の子どもたちは、母グモが食べた獲物の残りを食べるようです。
◆オダカグモ
こちらは、枯れ葉ではなくて、生きた葉っぱの裏に卵のうを作って、子グモたちが独立するまで保護します。
◆ウロコアシナガグモ
こちらも、生きた葉っぱの裏で子育てするクモ。エメラルドグリーンの色がとても美しく、私のお気に入りのクモです。
◆アズチグモ
樹木の葉っぱを糸で折り曲げて、そのすき間に卵のうを作ります。卵のうの中で子グモたちが生まれて外界に出てくるまで、保護しています。
◆アリグモ
アリグモは、一見アリみたいに見えますが、普段は網を張らないハエトリグモの仲間です。産卵して子グモが生まれるころまで、母グモは卵と一緒に幕の中に隠れてしまいます。
これって、食事はどうしているんでしょう? たまには狩りに出てくるのかな?
メスがこの状態で引きこもっているそばにオスのアリグモがいることが多いので、オスが差し入れでもしているんでしょうか?
これが、よく見かけるアリグモ。(たぶんメス。オスの亜成体かもしれません)
この個体は脚が6本しか映っていませんが、アリじゃなくてアリグモです。
こちらはオスのアリグモ。オスは触肢が大きいので、アリっぽくないですね。
◆マメイタイセキグモ
この写真は前の記事でも登場しましたが、卵のうを守るマメイタイセキグモ。こんな風にしがみつきながら、卵のうの数を増やしていくようです。
◆オナガグモ
この写真も前の記事で登場しましたが、卵のうを守るオナガグモ。子グモを狙うフタオイソウロウグモ(写真中央の赤いクモ)をやっつけたところ。
細長い卵のうから子グモたちが出てくるまで、そばを離れません。観察していると、大雨や強風などの天候に合わせて、卵のうの位置を移動させています。
◆フタオイソウロウグモ
こちらは、自分の卵のうを守るフタオイソウロウグモ。ちょっと揺すったぐらいでは離れません。
子グモにミルクをあげるクモ
◆コガネヒメグモ
コガネヒメグモは、樹木の葉裏で母親が卵のうを保護し、生まれてきた子グモたちにエサを吐き戻して与えるのだそうです。これをスパイダーミルクというそうです。
下の、赤黒い小さい子グモは生まれたて。一度脱皮すると親と同じ金色になります。
脱皮後の金色の子グモたち。葉裏ですが、キラキラしてとても目立ちます。
卵をくわえて保護するクモ
◆ユウレイグモ
このクモは、母グモが卵を糸でまとめてくわえ続けます。のぞき込むと、ブドウの房のような卵をくわえたまま、体を激しくゆすって威嚇してきます。
自分のそばの壁にでも卵のうを置いておいておけばいいのに、心配性?
ユウレイグモの母グモは、子グモたちが卵から出てきても、しばらくはこんな感じでくわえています。過保護。
卵のうをくわえたまま移動するクモ
◆イオウイロハシリグモ
このクモも、母グモが卵のうをくわえて保護し続けます。上記のユウレイグモは網の中にじっとしているクモですが、イオウイロハシリグモは網を張らずに徘徊するクモ。こんなお荷物をくわえて動き回るのは、疲れないんでしょうか?
国内のクモでは大型な方で、メスは大きいもので3センチ弱あります。初めて見た時はかなりのインパクトに驚きました。
卵が孵化するころになったら、草に卵を吊るします。子グモたちが生まれて、分散するまで、母グモはそばで見守ります。赤い丸が母グモ。
卵のうを運び、生まれた子をおんぶするクモ
◆コモリグモの仲間たち
コモリグモの仲間は、母グモが卵のうをお尻の糸いぼにくっつけて生まれてくるまで肌身離さず運びます。下はウヅキコモリグモのメス。
卵のうから子どもたちが出てくると、次はおんぶして暮らします。「子守グモ」の名前はここから来ています。
母グモの背中にいったいどれだけの子グモが乗っているのでしょうか? おんぶしたままでも素早く動くので、一人ぐらい落っこちてしまう子がいそうなものですが…。下は、キクヅキコモリグモのメス。
母グモが子グモたちの食糧になるクモ
◆カバキコマチグモ
水辺のアシがこんな風に丸まっていたら、中にカバキコマチグモの母グモがいます。小さい場合は一時的な住居だったりもしますが…。この中で母グモは卵を産み、生まれてきた子どもたちは、なんと母親の身体を食べて成長するのだそうです。
ちなみに、カバキコマチグモに噛まれると相当重症になるそうです。素手で気楽にアシの産室を開いて、怒った母グモに噛まれたら大変なことになります。
上の産室を開いてみたところ(^^;)
卵のうが一つと、お腹の大きな母グモが入っていました。
これは別の場所ですが、既に死んでしまった母グモの形跡と子グモたちの脱皮殻。子グモたちは第一回の脱皮をした後、母グモを食し、その後この産室から出て行ったと思われます。
アマチュア向けのクモの図鑑
日本のクモ
国内の普通種はほとんど載っています。生息地域が、細かい地域に分けて載せてあるのも役に立ちました。一口に「本州」と言っても、北と南、太平洋側と日本海側では、気候も平均気温もかなり違いますから。
フィールド写真主体なので、観察者にはわかりやすいです。まだ見たことのないクモもこの図鑑でイメージして探しに行くことができました。
小学生にもわかりやすい紙面で、クモを調べたい人には必携です。
残念ですが、この図鑑は、2016月10月現在Amazonの取り扱いはありません。風の噂では、春ごろに改訂版が出るようです。
クモ ハンドブック
メジャーなクモが載っています。
白バックで脚を広げた状態の写真なので体の構造や模様がわかりやすいです。
ただ、実際のクモは葉裏に丸まっていたり、網に仰向けにぶら下がっていたりするので、初心者がこの図鑑を見てクモを探しに行ってもイメージしにくいかもしれません。
メスの外雌器とオスの触肢の顕微鏡写真が載っているので、アルコール標本を作って顕微鏡で見る人には便利かも。
おしまいに
昆虫を見ていると、卵を産みっぱなしで親はその場を離れてしまうものが多いようです。それに比べてクモは、卵を保護するだけではなく、エサを分けたり、ミルクをやったり、自分の身体を食糧として提供したり…。卵を産んでからは、飲まず食わずのクモもいます。大変な献身ぶりです。
でも、私が一番感心させられるのは、どうやって子育てをしているのかを観察して見届けたクモの研究者の人たちの根気強さです。
最近はクモの研究も、自宅で飼育してビデオ撮影をして時間を圧縮したり、ハイテク化してきましたが、今までさまざまな疑惑を解明するために野外で粘り強く観察された人たちには本当に頭が下がります。