イスノキの虫こぶで「ひょん笛」を作る
近所の生け垣に見たことのない木の実がなっているかと思ったら、初めて見るイスノキの虫こぶでした。
▼ツバキみたいな木に、ツバキみたいな実が…。2019年1月6~7日撮影。
触った感じはツバキの実に似ていますが、形が違います。
葉っぱはツバキよりもトウネズミモチに似ている感じ。
なんの木だろう? …が始まりでした。
今回はイスノキにできた虫こぶで笛を作るお話です。
私は植物よりも虫の方に興味がある人間なので、虫寄りの観察です。虫こぶの中身やアブラムシの写真がちょっと出てきます。
※追記20190114 図鑑が手に入ったので少し書き足しました。
イスノキの虫こぶ
虫こぶを作ったのは?
帰宅してから調べてみると、この木はマンサク科のイスノキで、ついていたのはイスノキ自身の実ではなくて、アブラムシが作った虫こぶでした。
アブラムシたちがこの中でイスノキから栄養をもらって暮らし、別の木に旅立った後の廃墟ということです。
虫こぶ(虫瘤、英: gall)は、植物組織が異常な発達を起こしてできるこぶ状の突起のこと。虫癭(ちゅうえい)ともいい、英語カナ読みのゴールが使われることもある。それらはさまざまな寄生生物の寄生によって、植物体が異常な成長をすることで形成される。
Wikipediaより引用
ネットで調べてみると、イスノキに虫こぶを作るアブラムシは何種類もいるようで…。
- 「イスノキエダナガタマフシ」はイスノフシアブラムシ
- 「イスノキエダチャイロオオタマフシ」はモンゼンイスアブラムシ
- 「イスノキエダオオナガタマフシ」はイスノキオオムネアブラムシ
- 「イスノキハタマフシ」はヤノイスアブラムシ
など。
イスノキは枝葉に特徴がない木なので、虫こぶがたくさんついていることでイスノキだと特定できるという話もあるぐらいアブラムシに大人気の木。
アブラムシたちは秋にこの虫こぶから出ていくので今は空き家、のはず。(後で触れますが、そうでもないことも)
どのアブラムシが作った虫こぶなのか、今となっては私にはわかりません。
穴が開いた虫こぶは、そこで生活していたアブラムシが別の寄主に移動した後で、もう中に生きた虫はいません。だから採っても罪悪感はありません。
アブラムシは季節によって寄生植物を替えるものが多く、移動するときには翅ありの個体が生まれて、空を飛んで移動します。
こちらにアブラムシの生活史と虫こぶについて書かれています。
虫こぶを採集
▼持ち帰った虫こぶは、イチジク型なのと焼き芋型なのに分かれています。
大きさはさまざま。長さは小さいものは3センチ、一番大きいのが9センチ。
どの虫こぶも直径7ミリぐらいの穴が開いています。
▼穴の奥を覗いてみると、白いカスが…。
持ち帰るのに使ったビニール袋にも白いカスがたくさん。中から出てきたもののようです。
▼元々はこんな風にふたがついていたようで、取れてしまったのも、持ち帰り中に取れたものも。
▼これだけ穴が3つも開いていました。表に2つ、裏に1つ。色もほかよりも濃いめ。
虫こぶの中身
▼上の穴が3つ開いていた虫こぶを割ってみました。
はじめはカッターで切ろうとしましたが、歯が立たないので、カッターでつけた筋に沿って剪定ばさみでパカッと割りました。
かなり固くて、ふたつをぶつけるとコンコンといい音がします。
この虫こぶで笛(ひょん笛と言うらしい)ができるそうですが、たしかにオカリナを小さくしたような形。
▼こちらの半分には白い塊が見えます。
▼白い塊を拡大。アブラムシたちが排出したろう物質だと思われます。
▼こちらにはアブラムシの死骸。
大きな虫こぶには数千匹のアブラムシが生活するんだとか…。
▼拡大してもあんまりわかりませんね。
▼白い塊と死骸の塊を出して並べてみました。
これ、スーパーマクロで撮っているからグロく見えますが、実物は白い粉ぐらいにしか見えません。
本当の実
もう一度イスノキの様子に話を戻します。
イスノキの本当の実の跡はこれ。タネはすでにこぼれ落ちた後かな。
緑色の虫こぶ
手の届かないほどの高さに、まだ緑色の虫こぶもありました。
▼これはイチジク型で小さめ。
※追記20190114 これはイスノフシアブラムシが作った「イスノキエダナガタマフシ」のようです。
▼この写真を見ると、緑色の虫こぶにも穴が開いています。(下の赤丸)
わいてきた疑問
- 緑色と茶色の違いはなに?
- 穴あきと穴なしの違いは?
- 大きさの違いはどうして?
う~ん。わからないことだらけ…。
緑色が今年の夏のもので、茶色は去年以前?
ひとつ参考になるサイトが見つかりました。
『むしコラ』 ゴールで生活するアブラムシの快適な住まいづくり|日本応用昆虫動物学会
イスノキのオカリナ型の虫こぶをつくるアブラムシは、少なくとも2年以上この閉鎖空間の中で生活しつづけるそうです。
「緑色で、かつ穴が開いていないもの」は、まだ引き続き活動中の虫こぶということはわかりました。1年周期じゃないんだ! びっくり。
茶色いのは去年どころか、もっとずっと前のものなのかもしれません。
大きさの違いは…?
虫こぶが年月を経ると大きくなるのだけれど、途中でアブラムシたちがほかの木に移動してしまうと小さいまま終了し、ずっと居座ると大きくなる? それとも、中にいるアブラムシの種類の違いなのか? わからない…。
穴のあるなしは、「アブラムシが出たかどうか」と思っていましたが、後で書きますが、穴があるものでも中にアブラムシが残っているものもありました。
穴が開いていては、外敵(寄生蜂やクモなど)からの攻撃に危険じゃない?
図鑑によると
※追記20190114
注文していた文一総合出版の「虫こぶハンドブック」が届きました。
ハンドブックによると…、
剪定ばさみで割った茶色で大きな虫こぶたちはモンゼンイスアブラムシが作った「イスノキエダチャイロオオタマフシ」で、
高いところの枝についていた緑色のものはイスノキフシアブラムシが作った「イスノキエダナガタマフシ」
のようです。
以下虫こぶハンドブックより引用。
「イスノキエダチャイロオオタマフシ」
【形状】小枝に生ずる黄緑~茶褐色の虫えい。表面に褐色毛。直径80mmに達するものもある。木質化して硬い。
【生活史】10~11月に虫えい側面に丸い開孔部が生じ有翅胎生虫が脱出。二次寄主はスダジイ・アラカシ。4月に有翅産性虫がイスノキに戻る。3月にみられる小型円錐状の虫えいは、これまでに何年かかったか不明
「イスノキエダナガタマフシ」
【形状】小枝につく緑色のイチジク状の虫えい。長さ30~40mm。直径20mm前後。先端部にとげ状突起をもつことが多い。裂開孔はきれいな円形にならないことが多い。表面無毛。
【生活史】11月有翅胎生虫がアラカシなどに移住。春に有翅産性虫を生じ、これがイスノキに戻る。小型の虫えい状態で越夏・越冬して成熟する。
非常にわかりやすい説明です。
では、もう一度採集してきた、上の方の枝についていた小さい虫こぶを観察。
▼長さ約3.5cmの小型で、先端に突起がついていて、開口部がぐしゃぐしゃ。イスノキエダナガタマムシの特徴ですね。
▼こちらは約3.5~4cmでイチジク状の小型。突起がうっすらとあり、開口部は微妙ですがきれい。これはどちらなんでしょうか?
ちなみに、追加採集してきた緑色の穴あきの虫こぶにも有翅虫が入っていました。イスノフシアブラムシは穴が開いていても虫こぶの中で越冬するのかもしれません。
- - - - - - - 追記はここまで。
別の種類の虫こぶ
もう少し引いて見てみると、オカリナのような虫こぶは本当にたくさんついています。
この時、葉っぱについている虫こぶにも気がつきました。
葉っぱについた虫こぶはオカリナ型の虫こぶをつくるのとは別の種のヤノイスアブラムシが作った「イスノハタマフシ」だそうです。
▼こちらの方が一般的な「虫こぶ」のイメージな気がします。
▼オカリナ型だけでなく、このイスノハタマフシもたくさん見つかりました。
ネットを見ていたら、オカリナ型の虫こぶに葉っぱにつく虫こぶが二重に寄生しているのを発見した高校生がいたようです。おもしろい!
イスノキとアブラムシのコラボに珍現象。日本初「二重ゴール(虫こぶ)」発見! - 「みらいぶ」高校生サイト
オカリナ型の虫こぶだけでなく、イスノキという木自体も今回初めて見ました。
なかなか奥が深そう。
分布は関東以西とありますが、おそらく関西の暖かいところやもっと西に多い木なんじゃないかな。
アブラムシの活動時期になったら、またのぞきに行こ。
イスノキのひょん笛
ネットで調べると、イスノキの虫こぶで笛を作るのが昔の子どもの遊びとしてあったそうです。ひょん笛の実がなるからヒョンノキという呼び名も。
私もやってみたくなりました!(^^)!
ひょん笛の作り方
やり方が具体的に書かれているものが見つからなかったので、自分で適当にやってみました。
◆穴の開いた虫こぶを用意
まずは、穴(アブラムシの脱出口)の開いたイスノキの虫こぶを調達することが第一歩。穴のない虫こぶは、中に生きたアブラムシがいます。
◆実を枝から切り離す
ここでぎりぎりを切ってしまうと、実に穴が開いてしまうので余裕をもってカット。
◆内容物を洗い出す
穴に水道水をじゃんじゃん入れて中のものを洗い出し。
大きな虫こぶは内容物(中で育ったアブラムシの置き土産)が多いので、念入りに。
私は水道の蛇口をシャワーモード(細い水がたくさん出る方)にしました。
穴の手前で詰まってしまうこともあるので、その時は爪楊枝でホリホリ。
◆生きた虫がいることも
緑色の虫こぶも穴が開いているものを選んで採ってきたのですが…。
水を流し込んでいたら、生きた有翅虫が出てきました!
本来このアブラムシは有翅虫は秋にコナラなどの別の寄主に移動するはず。穴あきなのになぜ残ってる?
▼爪楊枝の先にのせて拡大。
10個の虫こぶのうち、生きた虫が入っていたのはこれだけでした。
どうしても気になる方は、煮沸消毒をされた方がいいのかも。でも、温水で洗っただけで割れたものもあったので、ご注意を。
◆穴をやすりで整える
アブラムシの脱出口を紙やすりで軽く削ってきれいにしました。
◆完成!
ストーブの前に置いて乾かしました。
古くてうっすら緑色の苔のようなものがついていたものは洗っている間に割れてしまいました(左奥)。
手前に写っている緑色の2つは、かなり薄くて、乱暴に扱うと壊れてしまいそうな感じでした。一番手前の緑のが有翅虫が出てきた虫こぶです。これは、ほとんど音は出せませんでした。
▼一番大きいのはこれ。長さ約9センチ。
ひょん笛の音
もちろん全部吹いてみましたよ。
穴の上で口をちょっと離して口笛を吹く感じ。少し練習が必要。
フルート吹きの人ならいい音が出せるかも。
意外でしたが、小さいほどいい音がしました。
「ひょん」というより「ほー」とか「ひー」。
大きいのはフクロウみたいな音がするかと期待しましたが、低くて中途半端な音でした。
笛もいいですが、虫こぶ同士をぶつけるとコンコンといい音がします。大きなのをいくつか集めたら、打楽器とか、インドネシアあたりで売っている木製の風鈴ができるかも。
虫嫌いの人は注意
よく洗えばほとんどカスは出てこなくなりますが、虫がたくさん(多い時は2千匹)入っていたものなので、虫嫌いな人には受け入れがたいかも。
私は毒虫以外はあまり気になりませんが、剪定ばさみで割った時にカスがどわっと飛び散って口に入ったのはやっぱり不快で、口を洗いました(^^ゞ
おしまいに
結論として、ひょん笛になるのは木質化した茶色くて大きな虫こぶ「イスノキエダチャイロオオタマムシ」のようです。
イスノキっておもしろい!
というか、イスノキにつくアブラムシたちの生活史が興味深い、ということですね。
でも、私が知る限り近所でイスノキがあるのはあの生け垣ぐらい。
おもしろい観察スポットができました。
かわいい形なので、穴をあけてペンダントにしようかと子どもに話したら、「趣味悪~!」と言われてしまいましたが…。
ちゃんと素材屋さんにも売っていましたよ。売り切れのようですが。
Natural Gallery(ナチュラルギャラリー)さんHPにて「イスノキ」と検索。
植物をたくみに操る虫たち: 虫こぶ形成昆虫の魅力 (フィールドの生物学)
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